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―現在制作しておられる作品・活動内容、またはご職業について詳しく教えてください。

 

 

現在は呉にある清水ヶ丘高等学校、呉青山中学・高等学校、広島市立基町高等学校の非常勤講師を計週20時間(コマ)、また本学にて協力研究員をさせていただきながら彫刻制作を続けています。

作品発表の場は二科展を主にしていて、2015年春に初めて学外で個展を開催しました。

また今年は縁あって呉のお寺の表札を作らせていただきました。

3月には安芸高田市向原に古民家を購入してアトリエをつくりました。まだまだ改装途中ですが近所には作家が集まれる工場もあり、新たな環境での制作活動が始まっています。

『空―阿弥陀―』2015

安芸高田市向原町坂のアトリエ

―大学時代についてお聞きします。どのような大学生活を送りましたか。

 思い出に残るエピソードなどがございましたら是非教えてください。

 

 

大学時代は少林寺拳法、授業(制作)、バイトの順にウェイトを置いていたので、彫刻に関してはあまり真面目な学生ではなかったように思います。ですがありがたいことに少林寺拳法の技術修練と彫刻技術の修練は共通項がたくさんあり、少林寺拳法がうまくなれば彫刻も上手くなり、彫刻がうまくなれば少林寺拳法も上手くなるという連鎖がありました。

また、私たちが学生の時は綿引道郎(二科会会員、鍛金・木彫刻家)という教授がいて、「彫刻とはこういうものだ!」という考えを学生たちに明確に示されました。その力強さと勢いに押されて自分の表現が確立されていったように思います。

思い出に残るエピソードとしては3年次の12月に10日間の古美術研究旅行(古美研)があるのですが、三年次は少林寺拳法ばかりしていたので制作の課題にろくに手をつけていませんでした。そうしたら古美研の飲み会の最中に当時助手だった引率の先生に「お前留年するで」と知れっと言われました。冗談だろうと思って聞き返したら本気だったそうで、古美研から帰って焦って課題をこなした記憶があります。

真面目な話としては古美研の時に運慶の彫刻に圧倒され、仏教的な作品を作っていきたいと思った結果、仏教思想を反映している少林寺拳法をテーマとした作品を卒業制作で作ろうと決意した記憶があります。この時必ず成功すると信じていました。

 

 

 

―卒業・修了作品について紹介してください。

 

 

タイトル 【 義和門 】 制作年 【 2008 年 (修了制作) 】

 

作品サイズはH200×W165×D200cmで、人体の1.3倍程度の大きさです。提出当時の台座は写真のような形ではありませんでしたが、後にこの形に変更しました。技術的には伝統工芸技法である鍛金(絞り)・彫金(打ち出し)を用い、材料は1.2~2mmの銅板を使用しています。大学院の修了制作として優秀賞をいただきました。

本作は少林寺拳法をモチーフにしています。少林寺拳法は仏教思想を反映した日本発祥の武道で、インドの仏教僧が行っていた天竺那羅之捔(てんじくならのかく)という拳法が原型となっています。仁王像に見られるポーズはその武術の構えを表しています。本作ではこのような背景から仁王像の吽形の特徴を踏まえ、架空の修行僧が法衣を着用し少林寺拳法の構えをした姿を作成しました。仏像の特徴として「正面性の強さ」があり、見る角度が限定されています。本作も仏像の持つ正面性の強さを出すために正面を目線の向きに限定して身体の幅を広くし、奥行きを深くしています。鎌倉時代の仏師運慶もこのような手法を取っていたと後に知りました。本作は二体一対で阿形もあります。

修了制作『義和門』2008

―卒業・修了作品展の経験は、その後の制作活動や現在のお仕事にどのような影響を与えていますか。

 

 

修了制作は現在の制作活動の原点です。本作で二科会の会友にも推挙していただきましたし、ずっと鍛金でやって行こうと決意したのもこの時期でした。高校の非常勤講師をしながらも、それ以外で大学が使える時間はすべて制作に費やし、どうやったら彫刻としての空間構成ができるか、立体感が出るか、骨格・構造を表せるか、美しい形になるかを常に考えながら技術研鑽する毎日でした。当時主指導の綿引教授(現名誉教授)に褒められたり、金工の先生方に技術を認めてもらえるようになった時は本当に嬉しかったものです。

現在は少林寺拳法の精神世界から発展し、仏像の模刻を通じて仏教の精神世界や宇宙観の表現を試みています。模刻は自分の作風に置き換えられませんから時間もかかりますし、ましてや鍛金は模刻に向きません。ですが鍛金でしか出来ない表現を試みているため、ここでの苦労もいつかは実るだろうと思いながら自己の鍛錬を重ねています。

 

 

 

―卒業生として、後輩に向けてメッセージをお願いします。

 

 

自分がこの世界で生きていこうと決めた限りは、作品制作での苦労は必ずついて回ります。楽しいばかりではありません。しかしその苦しみは後に必ず大きな喜びになって帰ってくると信じています。自分の作品で人に笑顔を与えられたり、研究した技術が後世に伝わったり、または続けていくうちに自分がしたいことを他の分野で見つけたりと形は人それぞれだと思いますが、自分の目標に向かって突き進めばどんな形であれ必ず花が咲きます。

小さな成功を喜び、失敗も成功だと信じて日々笑顔で創作活動に励んでいってください。

 

 

 

―今後の展示予定また宣伝などがございましたらご自由に記載くださいませ。

 

 

9月に国立新美術館で開催される第101回二科展に出品します。

また、前記のように安芸高田市向原町(芸備線沿線)に古民家を改装してアトリエを作りました。たまたま近所に作家に場所を提供してくださる工場もあります。制作を続けていきたいけど場所に困っている人は是非ご連絡ください。

(kongousin.0929&gmail.com) &を@に置き換えてご利用ください。

山中 洋明 Yamanaka Hiroaki

 

 

学生時代の専攻:彫刻専攻

卒業年:2006年

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